薬剤師のプログラミング備忘録

変人薬剤師の独り言

CYPの話

CYPに関する内容をTweetしたところ、かなりの反響がありました。

 

 自分はソフトウェアよりも「『誰でも関わることのできる』webアプリケーション」を開発することを重きに置いていますので、ダウンロード型のコンテンツの開発は今のところ考えていません。(ただ、誰でも接続できるということは、工夫しないとサーバーレンタル代やらの管理費用ぐらいの利益を得ることも難しいということでして、webまたはスマートフォンのアプリケーション開発も視野には入れています。)

 

 本来は、これらは国営または医療法人やある程度の組織によってデータベース化されるべきものであり、一個人がどうこうするような問題とも思います。現在日本で使用されている医薬品数は商品名で約20,000品目。これらについて一人の人間が全ての添付文書を閲覧し、確認し、代謝経路をデータベース化するというのは不可能に近い所業です。(可能であれば、薬剤師を総動員して添付文書を全て書き直した方が早いのかもしれません。)

 しかし、日本には添付文書というものがあります。公的なデータがあるのであれば、それをしっかりと一覧に示せばよいのですが、この添付文書も表記ゆれが多く、あまり当てにならない部分があるのが現状です。今回作成しているCYPに関するデータは外国から取得しています。ネット上または書籍上では代表的な医薬品や、CYPを強く阻害・誘導する医薬品についてはところどころで記載されていますが、一覧については記載されているところは見受けられませんでした。信憑性については論文等を根拠にしているため、各々の判断に任せるところがありますが。

根拠URL:SuperCYP

 本来であれば電子カルテの入力段階でCYPの影響は表示すべきですし、薬剤師が管理する薬局であるならば、薬歴システムに組み込むべき内容でもあります。

 配合禁忌、併用禁忌についてはソフトウェア開発会社もしくは薬剤部がデータ登録してあれば表示されるであろうことではありますが、CYPの相互作用については明らかに禁忌であるもの以外はほとんど記載がありません。これらは薬剤師の脳内での計算に頼っているところがありますし、添付文書の表記が統一されていないこと(表記ゆれ)が多いのと、CYPの阻害・誘導についての「強さ」の表記が具体的でないことも原因があります。

※薬物相互作用の強さについてはPISCSという概念があります。相互作用の強さをFDA基準の"strong","moderate","weak"に分けることを基本とし、それらを臨床試験に基いて式で表し位置づける概念です。学問としては薬物動態学に分類されます。

 

臨床薬物相互作用のシミュレーションによる予測

https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/7/50_664/_pdf

 

 

 例えばテオフィリンはCYP1A2が主な代謝経路ということは皆さんよくご存知かと思われますが、添付文書にはこのように記載されています。

テオフィリンの代謝にはP450の分子種のうちCYP1A2が主たる分子種として,3A4や2E1がマイナーな分子種として関与することが示唆されている. 

 もちろん、医薬品の主要代謝経路である3A4が関わることは知っていても、エタノールに代表される代謝酵素の2E1が関わるということを知っている薬剤師はどの程度居るかということです。

 しかし、それらを全ての医薬品に関して覚えることは非常に困難かと思われます。

 今や、医薬品の種類・作用機序は多岐に渡り、これらは覚えるよりも調べたほうが遥かに早い量になっています。薬剤師として、知っていることは重要ですが、如何にして早く・正しく調べるかという能力も重要になってくると思います。"正しい知識"ですら、数年ごとにアップデートされる世の中です。

 CYP3A43やCYP4F22なんかを把握している薬剤師が居るのかどうかと言われれば、多分居ないでしょう。もちろん自分自身も初めて目にしました。ただ、それを把握し、理解し、考慮してこそ、意味のある存在になれるのではないのかなと思います。ただし、これらがdatabase化し、誰でもアクセスできるようになった瞬間、薬剤師である意味は失います。医師や看護師がそれらを把握して処方を始めた瞬間に、それらは薬剤師が考慮する必要は少しずつ失われていくのかもしれません。

薬剤師の業務は"知っていること"から、"判断すること"にシフトしてきています。

薬剤師とは何なのでしょうか。そろそろ、結論が出るのかもしれません。

 

頭がうまく回らないので、今日はこの辺で。